外資系投資銀行 IBDジョブ対策 ~30分でわかるDCF法(サンプル配布 ダウンロード可)~
まず、ジョブの重要性が分かっていない就活生諸君にはこちらの記事を読んでもらいたい。
外資系投資銀行のジョブの内容
投資銀行部門(IBD)では買収提案*1のジョブがある。まずはジョブの流れを知ることからはじめよう。
バンカーからDCF法の講義を受ける*2
課題企業が発表されてグループワーク開始*3
課題企業について手分けして調べる
課題企業に提案する買収先を決める
買収企業のバリュエーション(企業価値算定)をする
発表資料を作る
注意したいのは1日目の午前中にある講義だ。サマージョブでは講義があるから予備知識不要という馬鹿げた戦略を進めるやつがいるが間違いだ。
なぜなら、この講義は専門書数冊分の内容をわずか90分で説明するクソ講義だからだ。バンカーは馬鹿じゃないからクソ講義だということを分かっててやってる。「説明したんだからできるよな?」ということだ。
つまりグループワークでチーム全員が初学者だったらその時点で試合終了だ。各チーム1人くらいはできるやつがいるものだが、チーム分けの運任せをしていると痛い目に合う。ひどいときは「ほかの投資銀行のジョブに参加したからバリュエーションできるぞ」などというアホがいる。そういうやつはバリュエーションができるチームメイトが作業しているのを隣で見ていただけで実際には何もできない。
バリュエーションを身に着けておくことが重要だということはお分かりいただけただろうか。専門書何冊も読めとは言わないが、計算方法の丸暗記くらいはしていくといい。バリュエーションは作業だ。作業の工程を理解していくだけで差がつくおいしいポイントだということを忘れてはならない。
バリュエーションは3種類ある
バリュエーションってのは買収価格を求める公式だと思っていい。買収価格を求めるアプローチ方法は3つだ。
コストアプローチ
企業が持ってる資産に値段をつけていく方法だ。20億のビルを持っているから20億円、8億円の生産ラインを持っているから8億円、現金が手元に1億円あるなら1億円、と企業の持ち物を足していくだけだ。 1億円のものを1億円で売ってくれと言っても交渉にならないから、1億円のものを1.2億円で買うぞと交渉をする。これがコストアプローチだ。
マーケットアプローチ
相場で考えるのがマーケットアプローチだ。その企業の株が1株500円で売られてるんだからつべこべ言わず500円、というのがマーケットアプローチだ。だが、今は1株500円だがすぐに1株600円になるはずだと主張してくるから、じゃあ600円で買ってやるから許せという交渉をする。
インカムアプローチ
DCF法はインカムアプローチの1つだ。インカムアプローチは、その企業が今から100億円稼ぐ予定だから100億円という考え方だ。100億円稼ぐ予定というやつはだいたい80億円しか稼げない。交渉するときは100億円稼げるはずだいや稼げないはずだという不毛な議論をする。
ジョブのときはインカムアプローチのDCF法ができれば十分。
DCF法の計算手順
将来入ってくるお金の概算
まずはその企業のことを知ることだ。どんな事業やってて今後の展望はどうで、今は1年間にいくら稼いでいるのか、その稼ぎは増えそうなのか減りそうなのか、そういう議論をする。 厄介なことに、企業の利益は来月振り込まれる予定の売上ってものもカウントしている。これじゃあ今からいくら稼げるのかがわからない。来月振り込まれる予定の売上ならいいが、来月支払う予定の仕入れがあっては困る。将来お金が入ってくると思っていたら出ていくかもしれないのだ。だから将来受け取るだと支払うだとかを調整しないといけない。
ここからは決算資料から計算するだけだ。決算資料を見なことがない人はいま見るといい。ずれずらと専門用語が並んでいるが、日本語で書かれているから項目の区別くらいはつくはずだ。
将来受け取るだとか支払うだとかを調整した式がこれだ。
営業利益*4-法人税等*5+減価償却費*6+のれん償却費*7-売掛金増加額*8-棚卸資産増加額*9+買掛金増加額*10
増加額ってのは今年の金額から去年の金額を引けばいい。今年のほうが少ないならマイナスの増加だ。 何をやってるかわからなくてもいい。決算資料を書き写して電卓をたたけば答えは出る。
将来出ていくお金の計算
将来設備投資をするならお金が出ていく。工場が老朽化しているらしいから3億円払わなければいけないだろう、などを考えて先の数値から引く。
営業利益+減価償却費+のれん償却費-売掛金増加-棚卸資産増加+買掛金増加-設備投資
設備投資で3億円使うなら3億円を引くことになる。
予想の仕方
はっきりいって予想の仕方などない。どうせ10億円稼げるはずだいや稼げないはずだという不毛な議論をするのだ。だったらいや稼げないはずだと言い切ってしまえば稼げないことになる。予想は外れるから予想だ。適当に書いてしまって問題ない。
さっきの式を予想バージョンで5年分ほど作ったら次のステップだ。この式で求められる将来稼げる金のことをフリーキャッシュフローという。これはよく出るから覚えておくといい。
使わないお金は預金すれば増える
金融には厄介な前提がある。使わないお金は100円であっても預金して利子をもらうという前提があるのだ。だから1年間お金を使わなかったら1%くらいは増える。1年後に101円もらうのと今100円もらって預金するのは同じだというわけだ。
そして預金なら1%で済むが株式投資なら5%くらいは儲かる。株を買うかどうか判断するときは100円が101円になるかどうかではなく105円になるかどうかで決めるのだ。企業が将来10億円稼ぐといったら、その10億円は今の何億円相当かという議論が起こる。今9億円もらって株を買うとの、将来の10億円のために買収するのとでどちらがいいのかを考えているのだ。
こんなものは理解できなくてもいい。そういう前提らしいと知っておくだけで十分だ。計算式を覚えればいい。 今度は株を買ったら5%儲かるのか6%儲かるのかという不毛な議論が起こる。5%儲かるから将来105億円稼げる企業は100億円の価値だ、いや6%儲かるからもっと価値は低い、という議論だ。いくら稼げるかなどわからないから、謎の公式によって合意をとることになっている。「WACC」%だけ稼げるというのだ。
WACC=(2%+β×5%)×資本比率+2%×(1-35%)×負債比率 資本比率=時価総額÷(時価総額+借金) 負債比率=借金÷(時価総額+借金)
1つ目の2%ってのは国債を買うと儲かるお金のことだ。今のご時世国債で2%も儲からないがなぜか2%にする。気になるなら1%でも0.5%でもいい。こんなものは言ったもん勝ちだ。
次の5%は株を買うと儲かるお金のことだ。日本の株は買うと損をするとかそういう話をしているのではない。5%儲かることにしているのだ。
βが何者かを証明した人はノーベル経済学賞を取ったから、こんなものを議論したら何年もかかる。「企業名 β」でググると出てくるからそのまま使えばいい。
次の2%のは利子のことだ。この企業が借金したら何%の利子を払うのかを考えればいい。*11わからなかったら社員に質問すれば教えてくれる。
次の(1-35%)は税金だ。税金の額は利益の何%って方法で決まる。利子を払うと利益が減るから税金も減るのだ。それが1-税率35%ってことだ。何を言っているのかわからないときはこのまま書いておくといい。社員は察してくれる。
計算する
WACCが6%だったとしよう。1年後に10億円儲かるなら10億円÷(1+6%)の価値がある。*12さらに1年後に10億円儲かるなら10億円÷(1+6%)÷(1+6%)だ。2年間株を持ったら1年間の時よりも儲かる。これを繰り返していくだけだ。
Σ[n=1~∞]{(n年目のフリーキャッシュフロー)÷((1+WACC)のn乗)}
が企業価値になる。
継続価値と株式価値
企業は数年じゃ倒産しないがだからといって何十年分もフリーキャッシュフローを予想するのは骨が折れるし議論にもならない。 だから5年目以降は一定の割合でフリーキャッシュフローが成長すると考える。成長しないと思うなら成長率0%だといえばいい。
5年目以降の企業価値 =6年目のフリーキャッシュフロー÷(WACC-成長率) =5年目のフリーキャッシュフロー×(1+成長率)÷(WACC-成長率)
これで求められる。*13だが、これが6年目時点でこの金額相当だということだから、今の金額に換算するならさらに(1+WACC)の6乗で割らないといけない。
そして、この企業価値は会社の借金を含めた価値だから借金を返済しきると減る。*14
エクセルシートの配布
(1+WACC)の何乗って計算は面倒だろうが、エクセルには自動で計算してくれる機能がある。
=NPV(WACC, 1年目, 2年目, 3年目, 4年目, 5年目, 6年目以降)
と入力しておけば勝手に企業価値を計算してくれるのだ。
まあ難しいことは考えずにテンプレで使えばいい。できすぎない程度に雑なシートを作ったからダウンロードしてぜひ使ってくれるといい。 ダウンロードした人はこのサイトを紹介しておいてもらいたいところだ。
https://www.axfc.net/u/3784753
pass:0000
*2:1日目集合直後~午前中
*3:1日目の昼食前後に開始する
*4:商品の販売で稼いだ利益;人件費などは支払った後に残った金額
*5:国に納める税金;「損益計算書」に書いてある
*6:すでに支払い済みの費用だから足す;もう支払わなくていい;「キャッシュフロー計算書」に書いてある
*7:すでに支払い済みだから足す;もう支払わなくていい;「キャッシュフロー計算書」に書いてある;のれん償却が0円の企業もある
*8:まだ徴収していないのに売上扱いしている;金はまだもらってないから引く
*9:これから売る商品を売上扱いしている;金はまだもらってないから引く
*10:これから支払う代金をもう支払ったことにしている;まだ支払っていないから足しておく
*12:WACCは儲けられると主張している割合だから、いま10億円手元にあったら1年後に10.6億円になることを意味する。1年後に10億円なら今は10億円÷106%だ。
*13:WACC-成長率で割ると無限項の数列の和を求められる。文系は知らないが理系なら高校生の教科書に載っている。
*14:借金を返すと価値は増えるんじゃね?と思う人がいるだろうが、借金して手元にあった10億円を返してしまうのだから10億円が手元からなくなる。だから減る。分からなければこのまま覚えるといい。
*15:決算資料では借金のことをかっこつけて有利子負債と呼ぶ